税金それホント?
2011.5.1
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107.国税通則法改正は納税者の権利侵害に!!

 TCフォーラム(納税者権利憲章をつくる会)は4月26日、国税通則法を「国税にかかる共通的な手続き並びに納税者の権利及び義務に関する法律」に「改正」する法案について改正案どおりに成立したならば納税者の権利を著しく侵害することになるので、納税者に義務を押し付けたり、課税庁の権限強化に繋がるような点について修正を求める緊急の要望書を提出しました。
 TCフォーラムの緊急要望書は以下の通りです。

国税通則法「改正」に関する緊急要望書

 政府・財務省は2011年1月25日、「所得税法等の一部を改正する法律案」(以下単に「改正法」といいます。)を発表しました。その中で納税環境整備の一環として国税通則法を見直し、「納税者権利憲章」の制定、税務調査手続、更正の請求、理由附記などの改正をしようとしています。
 私たちTCフォーラムは納税者の権利保護のため、諸外国にならい「納税者権利保護法」の確立が早急に必要であるとして三次にわたり100万人の請願書を衆参両院議長に提出してまいりました。
 租税国家において納税者の権利を保護することは憲法11条等に規定する基本的人権の保障のうえから喫緊に法制化することが求められますが、その内容が人権規範に沿ったものでなく、納税者に義務を押し付け、課税庁の権限強化になる法改正であれば、私たちの長年の願いとは相容れないものとなります。私たちは政府が「改正法」に盛り込んでいる以下の点について、納税者の権利を著しく侵害することになるので削除等を行うよう緊急に要望するものです。
 去る4月22日、政府は「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律案」を提出しましたが、その附則に「所得税法等の一部を改正する法律」が公布日以後、国税通則法の名称を「国税に係る共通的な手続並びに納税者の権利及び義務に関する法律」と読み変えると規定しています。これは国税通則法改正案が何らの修正なしに所得税法等改正案と同時に成立することを前提として書かれているとしか考えられません。
 政府は大震災関連の諸措置に伴い、所得税・法人税等の修正を行ったうえ、「所得税法等一部改正案」を再度国会に提出することに鑑み、その際、併せて国税通則法の改正案についても修正のうえ提出することを緊急に要望します。

1.第1条目的の「税務行政の公正な運営を確保し」は訂正すべきである

「改正法」は第1条の目的に「国民の権利利益の保護を図りつつ」という文言を入れながら、一方で現行法にある「税務行政の公正な運営を図り」を「確保し」に変えている。これでは「税務行政の公正な運営」が国民の権利利益の上方に位置することになる。よってこの文言を平成14年7月12日に野党3党(民主・社民・共産)により共同提出された「国税通則法の一部を改正する法律案」(以下単に「平成14年改正案」という)にあるように「税務行政の運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって……国民の権利利益の保護に資することを目的とする」とすべきである。


2.「納税者権利憲章」に義務は不要なので削除すべきである

「改正法」は納税者権利憲章に記載すべき具体的な項目として「納税者の権利及び義務に関する事項」(「改正法」第4条第17号)とあるが、納税者の義務は各税法等に記載されており、納税者権利憲章には納税者の権利のみを記載すべきである。諸外国の納税者権利憲章などにおいてもことさら義務を記載している例は少なく、「平成14年改正案」にも入っていない。よって義務を削除すべきである。


3.基本理念ないし納税者権利憲章に「誠実性推定の原則」および「プライバシーの尊重」を規定してもらいたい

「改正法」には納税者の基本的人権を確保するうえで欠くことのできない納税者の権利、すなわち「納税者が行った手続は誠実に行われたものとして尊重する誠実性推定の原則」および「プライバシーの尊重」がまったく触れられていない。平成14年改正案および韓国、カナダなど諸外国の納税者憲章には記載があるのであるから、この点について「改正法」ないし納税者権利憲章記載事項に名定すべきである。


4.税務調査における帳簿等の「提示・提出」を罰則付きで法定化することは削除すべきである

「改正法」は現行税務調査における「質問」「検査」に加え「当該物件(その写しを含む)の提示若しくは提出を求めることができる」としている(「改正法」第74条の2第1項等)。これは現在実務上行われていることを法令上明確化したものであるというかもしれないが、納税者の権利の確立と無縁であり、逆に義務の強要となる。現状において物件の預かりや提示、提出が行われているものとしても、それは納税者の任意の協力によるものであり、それを手続規定として強要することには反対である。諸外国においても物件の預かり、提示・提出に関する明文規定は存在しない。
 さらに「提示・提出」を拒んだ場合罰則が適用されることになっている。「改正法」は「物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件を提示し、若しくは提出した者」に対し、懲役1年以下又は50万円以下の罰金を科すとしている(「改正法」第127条3号)。
 この規定は課税庁の権限強化、納税者に対する義務の拡大となるので削除すべきである。


5.「提出物件の留め置き」は削除すべきである

「改正法」は「国税の調査について必要があるときは、当該調査において提出された物件を留め置くことができる」と規定している(「改正法」第74条の7)。「留め置く」という用語は現行印紙税法21条1項に使われており、一般的には物件の占有を意味するが、公的機関が留め置く場合は「領置」という。これは課税庁の権限強化であり、一般の任意調査に査察調査の手法を持ち込むものであるから削除すべきである。


6.事前通知を行わない場合の例外規定は変えるべきである

「改正法」は原則として「納税義務者又は納税義務者の取引先に対し、実地の調査開始日前にあらかじめ通知したうえ、書面を交付する」としている(「改正法」第74条の9第1項)。だが、例外として、
(1) 違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にする恐れがあると認められる場合。
(2) その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合、には無予告調査ができるとしている(「改正法」第74条の10第1項)。
従来は無予告調査があったときは、納税者は日を改めるよう申し入れることができたが、「改正法」では課税庁の恣意的判断により法的に無予告調査が実施できることになりかねない。諸外国の立法例に比してきわめて課税庁寄りの考え方となっており、「平成14年改正案」においても「検査をしようとする物件が隠蔽される等調査の目的を達成することが著しく困難になると認めるに足りる相当な理由がある場合」という文言になっていた。例外規定はこの程度の規定で充分足りるはずである。
なお、平成14年改正案や諸外国の例に見られるように、文書による事前通知は「あらかじめ」ではなく、「14日前までに行う」ことを法定すべきである。


7.事前通知書に記載する「調査の目的」を「調査を必要とする主たる理由」に変更すべきである

「改正法」第74条の9第1項(事前通知書)第3号に、「調査の目的」を記載するとしている。具体的には「○年分の所得税の申告内容の確認等」と書けばよいと例示されているが、これでは何のための調査か納税者は具体的に理解することができず、法定化する意味がない。「改正法」第74条の2第1項には「所得税、法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは」と規定しており、調査が必要な場合には何らかの理由があるはずであり、それを事前に開示すべきである。平成14年改正案では「調査を必要とする主たる理由」となっており、円滑な税務調査を実施するためには「調査の目的」を「調査を必要とする主たる理由」にすべきである。


8.反面調査先に対する事前通知は反面調査を法定化することになるので削除すべきである

「改正法」第74条の9第1項は、取引先(反面調査先)に対しても事前通知書を交付するとしている。反面調査先に対する事前通知書の交付は一見すると納税者の権利のように見える。だが、国税庁の現行税務運営方針でも「反面調査は、客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする」と反面調査の補充性を認めているように、通常の税務調査においてむやみに反面調査は行うべきではなく、むしろ反面調査の補充性を明記すべきである。反面調査においても事前通知書を交付しない無予告調査の規定は適用されるから、事前通知を行うことはまずないとみなければならない。あらたに「取引先等」という用語を法定することは、いきなり反面調査を行うことの違法性を是認したものといわざるを得ない。よって取引先への事前通知に関する規定は削除すべきである。


9.「修正申告の勧奨」、「再調査の法定化」は削除すべきである

「改正法」は調査が一段落し増差税額が出ると認められるとき、「その調査結果の内容を説明し、当該調査結果の内容を簡潔に記載した書面を交付する」としている(「改正法」第74条の11第2項)。その際、「修正申告又は期限後申告の勧奨を行うことができる」(「改正法」同条第3項)と規定し、修正申告の勧奨を法定化しようとしている。さらに、修正申告書が提出された段階で「調査終了通知書を交付する」としている(「改正法」同条4項)。
 つまり、修正申告書の提出がなければ「一件落着とはならない」と暗に脅しているのである。修正申告書の提出は納税者の任意の判断に任せるべきであり、法定化することは納税者の不服申立権を侵害する。よって修正申告の勧奨は削除すべきである。
 なお、「改正法」第74条の11第8項は「調査終了通知書」を交付した後でも再調査できるとしているが、これは禁反言の法理に反するので削除すべきである。


10.「増額更正」期間を5年に延長すべきではない

「改正法」は、納税者の更正の請求ができる期間と課税庁の更正処分のできる期間を一致させるべきであるという要求を逆手にとり、更正処分のできる期間を3年から5年に延長することを盛り込んだ。これにより税務調査の期間も3年から5年になり納税者の負担は増大する。しかも納税者が更正の請求を行う場合、「更正請求書に偽りの記載をして税務署長に提出した者」には1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられる。これでは更正の請求を出すのに躊躇せざるを得なくなる。更正処分の期間を3年に戻すとともに、更正の請求の提出に罰則を科すべきではない。


11.「理由附記」のために白色申告者に対する記帳義務を拡大することに反対する

「改正法」第74条の14はすべての処分について理由を附記するとしながら、個人の白色申告者については記帳・帳簿等保存義務の拡大と併せて実施するとしている(改正所得税法第231条の2)。すなわち、現行法上記帳義務・記録保存義務が科せられていない所得300万円以下の白色申告者については記帳義務を法定化したうえ理由附記を行うというのである。さらに問題なのは理由の中身である。白色申告者に対する推計課税の規定は残ったままであるから、推計課税の理由程度になる可能性が高い。税制改正大綱には「記帳・帳簿等の保存が十分でない白色申告者に対しては、その記帳・帳簿等の保存状況に応じて理由を記載する」と書いてあった。理由附記は行政処分に対する国民・納税者の権利であり、諸外国においてはいかなる処分であっても理由附記を必ず行う。よって理由附記を根拠にすべての白色申告者に記帳義務を課すことに反対する。

以上



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