トピックス
 
TOPへ 前 次


国税庁 所得税基本通達改正へ
「はずれ馬券は必要経費か?」

 最高裁は3月10日、馬券の払戻金を申告せずに所得税 約5億7千万円を脱税したとした元会社員の男性に対して「継続的に大量購入をした馬券は経費」と判断。その上で脱税額を約5千万円に減額し、懲役2年、執行猶予2年の下級審の判決を支持し、検察側の上告を棄却しました。これに伴い国税庁は競馬の払戻金を一時所得としている現行基本通達を改め、購入方法や規模によっては一時所得ではなく「雑所得」とする例外規定に改める方針のようです。

所得税基本通達 34−1(一時所得の例示)
(2)競馬の馬券の払戻金、競 輪の車券の払戻金等
一時所得の金額=総収入金額−その収入を得るために支出した金額−特別控除
雑所得の金額=総収入金額−必要経費(直接要した費用・販売費・管理費など)

■所得税法違反事件の概要
自作のソフトなどにより長期間、大量に馬券を購入、多額の払戻金を得ていたが2007年から2009年の確定申告書にその所得を記載されていなかったものです。

◆想定される国税庁・大阪国税局の主張
払戻金30億1千万円 当たり馬券購入費 1億3千万円
一時所得=(30億1千万円−1億3千万円)−150万円(特別控除1年50万円×3年)=28億7850万円
所得税(3年間)=28億7850万円×1/2×40%≒5億6731万円

◆想定される元会社員の主張
払戻金30億1千万円 当たり馬券・はずれ馬券購入費 計28億7千万円
雑所得=30億1千万円−28億7千万円=1億4千万円
所得税(3年間)=1億4千万円×40%≒4千7612百万円
*所得税は、課税額×税率−控除額で算出。
*実際の所得税の計算では、他の所得や所得控除を加味することになります。

 裁判においては、購入した馬券の収入が一時所得か雑所得にあたるのかが争点になっていました。今回最高裁は、「独自の条件設定などにより長期間にわたり網羅的に馬券を購入して多額の利益を恒常的にあげ、はずれも含む一連の馬券購入が経済活動といえる場合には、はずれ馬券の購入費も経費と認めるべき」とし、元会社員の所得を「娯楽ではなく経済活動」として雑所得としたものです。
そもそも、馬券の収入がどの所得に該当するのかは所得税法に記載されているものではなく、上記の 「基本通達」 にのみ記載されているものです。
所得税法では、一時所得について34条で「…営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得…」としています。
今回、「反復継続して取引をし、継続して収入を得ていた」場合にまで一時所得であることを主張するには無理があると考えます。

 国税庁は今回の判決を受け、「競馬の払戻金は一時所得、例外的に雑所得」とする方向で基本通達を改正するようであり、すべての事例について「はずれ馬券は経費」とはしないようです。
一時所得か雑所得、どちらの税負担が軽くなるのか。一概に雑所得の税負担が軽く、一時所得が重いとは言えない場合もありますので、注意が必要です。

(吉田 記)



TOPへ 前 次