前代表社員長崎真人自分史
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第一部】第十話 太平洋戦争始まる/黒瀬さん(姉の恋人)の戦死(
 
第9話 上級生が敬礼して通る、まるごと古着の新入生
 1941年(昭和16年)12月8日、太平洋戦争が始まりました。
 この戦争は、日本人が歴史上かって経験したことのない、悲惨極まる戦争でした。開戦を知らせる臨時ニュースがラジオから流れてきた時、台北市東門町の我が家では、いつものように一家7人揃って朝食をとっていました。
 永年教職にあった父のしつけで、我が家では春夏秋冬一日も欠かさず、全員が一斉に起床し、きめられた分担に従って、座敷や玄関の掃除、縁側の雑巾掛け等に一汗かいてから、揃って食卓に付く習慣になっていました。人一倍寝坊な私などにとっては半分寝惚けながらのことでしたが、それでも一家揃っての朝食の食卓は和やかな空気に満ちていました。
 

 この前年、兄の明が台北高校、私が台北一中、妹の久美子が旭小学校と一年生が3人揃って、我が家は幸福の絶頂にありました。

  緒戦からの大戦果は、若い私などを酔わせるに十分でしたが、それにしても、これは誠に突然の事でした。「ABCDライン」などと言われ、米英両国をはじめ連合国側と我が国との間の緊張が極度に高まっていた事は知らされていましたけれども、ハワイ真珠湾に対する奇襲攻撃、マレー半島沖の海戦、こんな突発的な形で戦争が始まろうとは、私でなくとも国民の多数は思いもよらなかったのではないかと思います。戦争と言うものは、いつもこのようにして始まる。機先を制するためには敵にも国民にも秘密にして事を進めなければならない。「敵を欺かんと欲すれば先ず味方を欺くべし」と言うことです。