前代表社員長崎真人自分史
目次へ 前のページへ 次のページへ
第一部】第十四話 台湾軍に編入される(10
 

 後年知るところによれば、他の学徒隊は学生だけで、ある程度自主的な処理が出来たので、それ程劣悪ではなかったようだったが、我々機関銃中隊は正規軍の桃園守備隊の配下に置かれたので、備蓄の名目で、体よく配給を横取りされていたようだった。
 元気が良いのは、配属されてきた本物の軍人の隊長や下士官だけ、学徒兵は誰も彼も、まるで囚人の如く無言で彼らの指揮に従うのみ、白日の太陽の下、頭の中も白く空虚だった。
 猛烈な疥癬と虱が全員を悩ませた。僅かな休憩時間には、下着の縫い目をめくってゾロゾロと出てくる虱を潰して過ごした。

 電気がなかったので、夜明けと共に起床ラッパが鳴り響き、日暮れ時、薄暗い中で夕食を済ませると就寝。兵舎は丸太に茅葺、竹の床に藁を敷き、一枚の毛布にくるまって泥のように寝た。
 寝る前の僅かな時間に、上官の目を盗んで隠し持ってきたドイツ語の辞書を開いて見たりした。それだけが学徒らしい誇りを失いたくないと言う、はかない抵抗と言えなくもなかった。

 
沖縄へ向かう紅顔の特攻隊員


 四月、大部隊の米軍が沖縄に上陸した。
 その戦況の一切について、我々には知る由もなかったが、毎日のように、夕方作業地から帰る我々と行き違いに、トラックに乗り飛行場に向かう数人の少年航空兵と出合った。別れのお神酒を交わしてきたのであろう、高潮した頬がまだ幼かった。それが夜毎沖縄へ向かう特攻隊の勇士たちの最後の姿であった。

 ある晩、物凄い爆裂音に飛び上がった。非常呼集のラッパが鳴り響き、飛び出して見ると、数百メートル離れた谷の向こうに、深紅の炎が夜空を焦がしていた。エンジンの故障で引き返してきた特攻の一機が、着陸に失敗、あるいは帰り着くだけの燃料を与えられてなかったのであろう、空しく祖国の大地に激突して果てたのであった。