前代表社員長崎真人自分史
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第二部】第四話 生きる道を得た出会い()
 
第4話 生きる道を得た出会い、徳永直・渡辺順三共著「唯物弁証法読本」へ

 給料を貰うと早速、鴻巣町に1軒だけあった本屋に行って、当時センカ紙と呼ばれていた粗末な再生紙の印刷ながら、溢れるように出てきた種々な傾向の人生論や哲学書や雑誌を買い漁って読んだ。
 それまで治安維持法と言うものがあり、言論も出版も極めて厳重な統制下にあったと言う事も私は知らなかったのだが、この当時の本屋の店頭は、正に堰を切った濁流の如く、玉石混交ながら熱のこもった論調で一杯だった。
 
 そんな私の目を開いてくれたのは、兄が何処からか持ってきて見せてくれた、1冊の本、徳永直と渡辺順三の共著による「唯物弁証法読本」であった。
 極めて解りやすい丁寧な書きぶりで、人間の社会の仕組みや歴史的な流れについて、社会科学の立場から、科学的・法則的に解き明かしたものであった。
 著者の徳永直氏は、後に知るのだが、戦前の「太陽のない街」戦後の「静かなる山々」等で文壇を賑わしたプロレタリア作家で、文学者らしい感性を込めて書かれた文態は胸を打つものであった。
 渡辺順三氏も、戦前戦後を通じて「人民短歌」運動の中心的な存在だった人。
(「唯物弁証法読本」の内容とおふたりの著者については次回に御紹介したい)