前代表社員長崎真人自分史
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第二部】第三話 第二の故郷 農林省農事試験場鴻巣試験地へ()
 
第3話 第二の故郷農林省農事試験場鴻巣試験地へ

 台湾から引揚げて来た我が家にとって、とりわけ私にとって幸運だったのは、戦時中、独り内地に渡り、東大農学部に入っていた兄が無事卒業し、この春、農林省に就職していた事だった。
 上京後間もなく、台湾の我が家とは音信が切れ、その後どうやって空襲下の東京で生き抜いてきたのか、台湾総督府の依託学生として学費だけは補償されていたようだったが、それにしても一通りの苦労ではなかったであろう。
 

 この兄の尽力によって、8月、私は兄と同じ農林省農事試験場鴻巣試験地に就職することになった。

 ここは、全国の農業技術研究のメッカとも言うべきところ、東大閥を中心に帝大農学部卒のエリートでなければ、そう簡単に入れるところではないはず。
 旧制高校理科の卒業証書だけ(それも実際は2年中退)、面接試験もなく採用になったのは破格の事だったと思う。初任給65円、高等専門学校卒の研究室助手の待遇であった。