前代表社員長崎真人自分史
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第三部】第一話 中央科学技術部長は赤シャツの似合う好男子()
 
第1話
 8月上旬、私は、鴻巣試験地で指導的な役割を果たしてくれた、かの中年の同志T.H氏に伴われて上京し、中央科学技術部の同志に引合わされるため、目蒲線の沿線だったと思う、静かな住宅地の二階家に案内された。
 その人は、痩身・スマートな体格ながら、浅黒い肌に濃い眉の好男子で、私は初めて見る、真っ赤なシャツを着ていた。それが不思議に違和感なく、あか抜けていて、如何にも都会的な左翼インテリの典型と言う感じだった。高い鼻と大きく鋭い眼の光が、強い意思と理知を存分に表現していた。
 
 その人が、日本共産党中央科学部部長・石井金之助と言う人だった。

 彼の中年の同志は、鴻巣での、時に冗談を飛ばしたりふざけたりの感じとは全く違って、キチンと正座してかしこまっている。私は、更に緊張して精一杯眼を見開いて一言も発し得ない。石井氏は、座の空気を和らげようと思ってか、雑然と書籍が積み重ねられた本棚から、小さなビンを取り出して「これね、工大の同志に貰ったんだよ。純粋なアルコールなんだ。一口やって見給え」と言う。T.H氏は、ニコニコして「頂きます」なんて言っていたが、私は遠慮した。
 特別話も無かった。部長が準備して下さった下宿の地図を頂き、数日後に今度は、党本部に来るようにと、その日時を指示されて引下った。