前代表社員長崎真人自分史
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第三部】第ニ話 若さ一杯の青共本部()
 
 かのマドンナが「何かお話して下さい」と言う。これは困った。そんな積もりは毛頭ない。私は見に来ただけ、話をする準備など全くない。「でも、本部から来られたという事で、みんなが期待して集まってきたのですから」と言う。拍手が起きる。絶体絶命だ。

 已む無く私は口を開き、私が属している科学技術部と言うのは、どう言う部署で何をしようとしているのか、話し始めた。
 話の筋は、次のような事だったと記憶する。

 
 『戦前の日本の科学技術は、地主と財閥、絶対天皇制と軍閥に奉仕して、戦争犯罪の片棒を担がされた。本来、科学技術は人民の生活を豊かにするためにこそ役立つべきもの。今その大きな転換が求められている。そのためには、科学者や技術者が、殻を破って研究室の外に出て、労働者や農民の生活と生産の現場に入って、一緒に戦う事が必要だ。それができるのは、若い研究者たちだし、現場で働いている諸君だ』
 みんなは食い入るような目で聞いていたが、話し終わってもシンとしている。
 マドンナが「難しくて良く解らなかったけど、ともかく明日からまたみんな頑張んなさいと言う事よね」と言うと、「そうだ!」と一斉に唱和し熱烈な拍手と共に、さっとみんな消えた。残った私は、台風一過の荒野に独り佇む心境。