前代表社員長崎真人自分史
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第三部】第三話 激動の情勢下で()
 
公安条例の最初の犠牲 東交労働者・橋本金二の死

 中野に派遣されて間もない時の事として忘れ得ないのは、東京都公安条例の制定に反対する戦いです。戦後自由化されていた大衆的な集会・デモ等の団体行動を、はじめて明瞭な形で取り締まる条例として、全国に先駆けて都議会に上程されたのが、この東京都公安条例でした。
 この日、5月30日、都議会本会議に上程されるとの報に、全都の労働者・市民が都庁に押しかけました。議場は都庁の3階に在りました。その3階に至る階段も、議場前の廊下も、建物の周囲の庭も、ぎっしりと駆けつけた市民で埋め尽くされました。

 
 私は、仲間と前庭に居ました。やがて日が暮れ、夕闇が迫る時間帯、突如、数名の労働者が「今そこで俺たちの仲間が殺された」と叫びながら走り出てきました。見ると手には東交労働者・都電の車掌や運転手がかぶる制帽をかざし必死の形相でした。
階段の窓から突き落とされ
 警官隊は、裏口から密かに議場に入り、声を潜めて中に隠れていたのです。それが夕暮れと同時にドアを開け、棍棒をかざして廊下に詰めていた労働者に襲い掛かった。廊下も階段も満員電車のように立錐の余地もない状態でしたから、大混乱になりました。逃げる余地もありません。東交(東京都交通局)の若い車掌・橋本金二は3階の窓から突き落とされ制帽を血に染めて、公安条例の最初の犠牲になりました。