前代表社員長崎真人自分史
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第三部】第四話 史上空前・国電ストの第一線に()
 
 年の暮れに、「失対」の仲間たちが誘い合って、皆で「餅代」の支給を中野区役所に要請に行った。交渉は難航し、私が駆けつけた時には、区役所の玄関前に100人ほどの老若男女が座り込んでいた。夕闇が迫っていた。

 ふと、広場の横を見ると、六尺棒を構えた警官隊が一個中隊、横列になって待機していた。私はスルスルと、その横隊の前に歩み出た。学生時代の軍事教練で身につけた指揮官の位置に立つと、
 「警察官諸君!諸君は一体何のために此処に出動してきたのだ。君たちの目の前に座り込んでる皆さんは、みんな戦争の犠牲者だ。諸君の親やおじいさんおばあさんに当たる年頃の人も多い。正月を迎えるのに、僅かでも餅を買う金を貰いたいと要求しているだけなんだ。君たちも同じ日本人ではないか」と、精一杯の熱意を込めて喋った。
 
 私の話が終わると不思議な事が起こった。警官隊を指揮していたのは、恐らく30歳前後と見える若い幹部だった。それが「左向け左!駆け足前へ!」と号令し、部隊はその指揮に従って整然と帰って行ったのだ。