前代表社員長崎真人自分史
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第三部】第七話 築地警察署勾留23日()
 
「勾留理由開示公判」で聞いた岡林辰夫弁護士の火を吐く弁論
 2週間ほど経ったある日、「勾留理由開示」で出廷すると言う事で、私独りに警官4〜5人がついて護送車で東京地裁に向かった。
 「勾留理由開示公判」について私は何も知らなかった。何のことやら判らないままに法廷に入った。
 これは戦後新しくできた刑事訴訟の手続きの一つで、判事に対して、勾留された側から、その理由の開示を求める公判と言う事だったが、新しい制度だったので、知らなかったのは私だけでなく、検事も裁判所も経験の薄い事のようだった。

 広い法廷の後部座席には4〜50名の傍聴者がひしめいていて、振返って知った顔を探そうとしたが、その時間はなかった。
 
私が座らされた席の右側には弁護士が5名、左には検事、正面の高い席に裁判官、その下に書記官席という構成だった。どう言う訳か、被疑者として引き出されたのは私の他にもう独り中年の男性だけ、後で知るところによれば、他の人はこの公判を前にみんな釈放されたとの事だった。
 裁判官が、もう1人の同志を立たせて、いわゆる人定尋問を行う。彼もこの日まで黙秘で居たのであろう、裁判官に初めて住所氏名を述べる旨、同時に即時釈放を求める旨、主張した。端的な発言だった。