前代表社員長崎真人自分史
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第三部】第七話 築地警察署勾留23日()
 
小林多喜二と同じ房だった事を知る
 これは、はるか後年の事。一昨年(2003年)が、小林多喜二生誕100年・没後70周年に当たると言う事で、多喜二を偲ぶ多彩な行事が行われた中で、津上忠作・米倉斉加年演出の「早春の賦」を鑑賞する機会を得た。
 更に、町田でも是非この公演を催行したいと言う声が上がり、私も参加して「小林多喜二・早春の賦を観る会」が町田に結成され、2005年1月15日町田市民ホールで公演の運びとなった。

 そんな事があって、私は若い時に読んだ、多喜二の小説や解説の何冊かを読み返した。その中に手塚英孝著「小林多喜二」があった。
 
小林多喜二の「死と葬儀」
 真冬の冷たい監房に暮色がようやく迫ろうとし、五つの房にすし詰めとなった留置人たちは、空腹と無聊と憂鬱とでひっそり静まり、ただ夕食の時刻が来るのを心待ちにしていた。
 突然、私の座っている監房の真正面に当たる留置場の出入り口が異様なものものしさでひらかれた。そして特高―紳士気取りの主任の水谷、ゴリラのような芦田、それに小沢やその他―が二人の同志を運び込んできた。
 真先に背広服の同志がうめきながら一人の特高に背負われて、一番奥の第一房に運ばれた。