前代表社員長崎真人自分史
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第三部】第七話 築地警察署勾留23日()
 
警視総監の巡視 檻の前で弁当の目方を量る
 「勾留理由開示公判」の翌日、看守たちが朝から何やら慌しい気配で立ったり座ったり留置所内を行ったり来たりしていたと思ったら、10時頃入り口のガラス戸が開いて、えらそうな顔をしたのが4〜5人入ってきた。中でも、ひときわ威厳を繕ったのが、小柄で頭も身体も真ん丸の人物。私が居た第三房を横目に見て左折、第一房でユーターン、再度私の前をゆったりと通って行った。顔は正面を見据えていたが、気は私の方に向けられていた事が充分に察知できた。これは警視総監だ、新聞で見た顔だと判った。
 その後姿に、私はひとこと「飯が不味い、量も足りないぞ」と精一杯の大声で叫んだ。彼は一瞬立ち止まり、すぐ何食わぬ体で行き過ぎた。
 


 午後、年輩の看守長が私の房の前に机を持ってきて、小さな台秤に、弁当を載せて量って見せた。私に聞かせるともなく独り言のように「規定の量はあるな」と言った。
 その日から飯の量が増えた。朝の味噌汁は、全員に配り終わった後、私に「おかわりどうですか」とバケツに残ったのを持ってきた。私は、同房のみんなにそれを分けさせた。
 同房の皆さんは、最初から私が共産党だと知っていて一目置いていたのだが、この事があってからは、まるで大先輩か「牢名主」に対する如き扱いだった。